自ら草木染めで染めた布を用いて
キルト作品を作るシュクコキルトさん。
小田原市と、南足柄市の境目に農園を構え、
自然農法の畑で草木染めに使う植物を育てています。
日差しが暑いくらいだった
11月のある日、
シュクコキルトさんの畑を訪れました。

農道からお茶畑に入り、
少しくだるように歩いていくと、
急に丘陵地へ抜けて視界が開ける。

鮮やかなウコンの葉が
まるで生垣のように整然と並んでおり、
そこがモダンキルト作家「シュクコキルト」さんが
染料に使う植物などを栽培している
農園の入り口だった。

自然農法の畑には、
染めに使うためのマリーゴールドや、藍の畑、
小さくてかわいい人参畑など、
いろいろな目的に合わせた作物が、
雑草たちと一緒に元気に栽培されている。

シュクコキルトさんはその一つ一つを指差し
「百日草は本当に夏からずっと咲いている」ことや、
「今年新しく植えたスーパーフード『アマランサス』は
巨大に成長しておどろいた」こと、
「最近は種取りから育てることの大切を実感していること」など
畑を歩きながら、いろいろな事を教えてくれた。

自然農法でいろいろな作物をそだてる農園は、
アイデアの実験場のようで楽しい。

農園の真ん中あたりにある休憩所では
ちょうど自分で育てた藍が束られたものや、
柿渋で染めた茶色のリネンの布が
タープに下げられて干してある。
秋の午後の柔らかな太陽の光の力をかりて、
それぞれの目指すべき状態へゆっくりと
変化するのを待っている。

農業は素人だったシュクコキルトさん。
夫婦で小田原に移住してきた当初は
なんのつてもなく、農地探しから
まさに手探りではじめたそうだ。

やっと出会ったこの場所は、
初めてきた瞬間に気に入ったそう。

無事に契約が済むと、
家から農園まで、山道を自転車で通う
日々が始まった。

場所は決まったが、夫婦揃って農業初心者。
右も左もわからないまま、それでも仕事の合間に
農園へ通いつづけて畑仕事に勤しんだ。

やがて、その姿を見ていた周りの畑の「先輩方」が
「あんた、いつもえらいね〜」と声をかけてくれるようになり、
いろいろとアドバイスをもらえるようになった。
「特にとなりの畑の師匠にはいつもできたものを
いただいたり、情報交換をしたりして、
本当にお世話になっています。」

「今思うと、耕す必要もなかったんです。
草も抜かない方がいいんだけど、
はじめた頃はせっせと抜いて、
それが本当に大変で。」

静かに、でもとても楽しそうに
教えてくれた開墾の日々。

ここは、ふたりの遊び場であり、
実験場であり、楽園。

「今度ぜひ皆さんで遊びに来てください。」
またタープの下でシュクコキルトさんと
畑を眺めながらおしゃべりをしたい。

(写真・文 長嶺俊也)

農道まで迎えにきてくれたシュクコキルトさんについていく。
鮮やかなウコンの葉でできた農園の生垣。
食べることも大好きで、特にお味噌づくりには自信がある。
神奈川県の古来種『津久井在来種大豆』を栽培していて、
「これだと甘みのある美味しいお味噌ができる」そう。
農園のほぼ中心に置かれた休憩所。
この日は暑いくらいの陽光とからっとした秋風の中、藍が干されていました。
柿渋で染めたリネンの布も、農園の風で乾燥中。
染料用に栽培されているマリーゴールド。
こちらは小さな人参畑。
「穀物にも挑戦しようと思って」植えた、アマランサス。
ラベンダーも見頃でした。
シュクコキルトさんの藍畑。
休憩所に戻るとお茶の支度が。
畑を借りた頃の写真を見せてくれた。
はじめはこんな状態だったそう。
静けさの中に、好奇心とパワフルさが内包されているような魅力を持つシュクコキルトさん。
だからこそ、ここまで自分の作品にこだわれるのかもしれない。
農園の向こうに見える、怪獣のような不思議な木の借景。
周りの環境もふくめて、すべてがお気に入り。
シュクコキルトさんの作品たち。
草木染めで染めた布。染料の調合によって様々な色を生み出す。
制作に入る前にノートに描いてキルトのデザインを決める。
こちらはファブリックサンプル。
草木染めは、仮説と記録を繰り返しながらの試行錯誤の積み重ね。
午後の光につつまれる農園。居心地の良さに、すっかり長居をしてしまった。

LOBBYストアでシュクコキルトさんの作品を、ご紹介しています。

LOBBY ODAWARAで、
シュクコキルトさんの作品を
取り扱えることになりました。
第一弾は、ポットマットと、湯たんぽケースです
(FASHYの湯たんぽもセットで!)
長く使えるキルト作品で、
どれも布を染めるところから
時間をかけて作られた一点ものです。
2月頃からは草木染めのストールなども
展開していく予定ですので、お楽しみに。

アフリカン・アメリカン・キルトに出会い、
導かれるようにアメリカで学ぶ機会を得た
シュクコキルトさん。

そして日本に戻ってきて
小田原の地で草木染めを取り入れた
作品づくりをされています。

そんなシュクコキルトさんが、
ご自身のお話も書いてくださいましたので、
プロフィールと合わせて、
ぜひ、お読みください。


Shukuko Quilt

海と山に囲まれた小田原で、染料となる草花を育て、自ら染めた布を用いてモダンキルト作品を制作しています。また作品作りを通して培われた知識や技術、デザイン力を活かして、生活雑貨も作っています。

私がキルト制作を始めたのは、1冊の雑誌がきっかけです。

2007年12月号の暮しの手帖に、「アフリカン・アメリカン・キルトの世界」という、アメリカ南部に暮らすアフリカ系の女性たちが作ったキルト(the Gee’s bend quilt)の特集が載っていました。

大胆で生命力に溢れたデザイン、鮮やかで美しい配色、そして手仕事ゆえの人の温もりを感じさせるアフリカン・アメリカン・キルトに強く心を惹かれました。また布を使って芸術表現をするという、絵画とはまた異なったアートに魅力や可能性を感じました。

こういうキルトが欲しい!なければ自分で作ってみたい!と思ったのが、キルト作りのはじまりでした。

それまでにキルトを作った経験がなかったため、まずは自己流で作ってみることにしました。雑誌に載っていたようなキルトは、デザインは大胆で簡単そうに見えましたが、実際に作ってみると技術的にかなり難しいことが分かりました。独学に限界を感じ、キルトの作り方を教えてくれる教室を探しましたが、日本で主流のトラディショナルキルトを教える教室は多々ありましたが、私が求めるキルトを教えてくれる教室は見つかりません。教室探しを半ば諦めかけていた時、当時住んでいた横浜でアメリカンキルトを教えている先生と出会うことができました。この先生との邂逅が、キルト作りがもっと好きになり、後に本場アメリカでキルトを学べるという幸運につながります

その後、キルトの先生の紹介で、モダンキルトの先駆者である、アメリカ人キルト作家のNancy Crowのワークショップに参加するという機会に2度恵まれました。このワークショップは、毎日出される課題を朝7時から夜10時まで、2週間に渡りこなしていくという、とてもハードなものでした。授業では100色の布を用意し、配色の勉強もします。参加者の多くは、手染めした布を持ってきていました。その手染め布の風合いがすばらしく、キルト制作には布の力も大事だとその時に知りました。その気付きが、後に草木染めを始めることに繋がります。

また、藍染めや柿渋染め、刺し子などの日本の伝統文化に興味を持つ海外の方が多くいることを知り、自分の中でも日本で古来から受け継がれてきた手仕事を再評価する良い契機となりました。

東日本大震災以降、自分たちの暮らしや働き方を変えてみようと考えていたこともあり、2013年に当時住んでいた横浜から小田原へ引っ越しました。小田原は、空が広くて、人ものんびりしていて、海も山もある、自然を身近に感じることのできる町です。

また自然豊かな小田原だったら、染料となる植物を拾ったり、育てたりもできるのではないか。アメリカから帰国後、今後は自分で染めた布でキルトを作ろうと決心し、草木染めを始めました。

草木染めの本を参考に、試行錯誤しながら染め始めました。キルト制作のための布を染めていくうちに、植物の持つ色の美しさに心を奪われていきました。植物を煮出している時も、植物の色を纏った布に触れている時も、心がすっと癒やされていくのが分かりました。植物の力ってすごい、この美しい色をもっといろいろな方に知ってもらいたいと思うようになり、キルト以外にも、日々の暮らしに寄り添えるような生活雑貨も作るようになりました。

草木染めを始めてから、染料となる藍や草花を育ててみたいと思うようになりました。いろいろなご縁が重なり、2018年から箱根山麓の広い畑を借りることができ、そこで藍やマリーゴールドなどの植物染料となる草花を育てています。その他にも、自分たちが日々食べる野菜なども育てています。自然環境に配慮したサスティナブルな栽培方法で、無農薬で、かつ化学肥料などの肥料を使わない自然栽培を実践しています。

キルトは、さまざまな大きさや色、素材の布をつなぎ合わせる “パッチワーク”という技法で作ります。まるでキルトを作るかのように、様々な人・モノ・コトとの出会いがパッチワークのようにつながって、今の私があるような気がします。
モダンキルトや草木染め、草花を育てることを通して日々学び、自然に寄り添った心地よい暮らしの提案をしていきたいと思っています。


Shukuko Quilt|シュクコキルト
神奈川県小田原市在住。モダンキルト作家。アメリカ南部に暮らすアフリカ系の女性たちが作るアフリカン・アメリカン・キルトに感銘を受け、2013年からキルト制作を始める。キルト作家Nancy Crow等に師事しキルトを学ぶ。自然の色の美しさを作品に反映すべく、2015年から草木染めを開始し、自ら染めた布を用いたキルト作品を制作する。現在では箱根山麓の畑で草木染めの植物染料の栽培も行うなど、多方面で活動する。